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2017-2018後編

後編は皆さんが送ってくれた「レースに関する質問」に、塚越広大が答えました。こちらもプライベート編と同様にとても面白い内容になっています。ぜひご覧ください。

取材・文=川原田剛 写真=Honda

レース編

Q東京都の野島智宏麿さん他からの質問です。「スーパーGTとスーパーフォーミュラ、どちらが乗っていて楽しいですか?」
どっちもそれぞれ楽しさがあります。ドライバーとして速く走るという意味では、スーパーフォーミュラが断然楽しいですね。でもレースのバトルを楽しむという意味では、スーパーGTになります。
Q東京都のTronさんからの質問です。「2017年はいろんなレースでオーバーテイクを決めてくれましたが、追い抜きする時に何か考えているものなのでしょうか?」
コースや自分と相手のマシンの状況など、いろんなことを考えていますが、「一発で仕留めるにはどうすればいいか?」といつも考えていますね。なるべく余計な動きはせずに、相手のスキを見つけたら一発でズバッと仕掛ける。それがポイントです。武士道に通じるところがあるかもしれませんね。
QTronさんからもう一問です。「スーパーGTとスーパーフォーミュラでは、ドライビングする際に気持ちは違うものですか? 2つのレースでは明らかに切替えているのでしょうか?」
基本的に一緒ですね。フォーミュラとGTで気持ちや乗り方を変えたりすることはありません。
Q大阪府のおいもさん他からの質問です。「得意な(好きな)サーキットと苦手な(嫌いな)サーキットがあれば知りたいです。またスーパーGTとスーパーフォーミュラでは好き嫌いが異なるのでしょうか?」
得意なコースはありません(笑)。苦手なコースは鈴鹿ですね。昨年も言っていますが、一番走り込んでいるはずなのに、本当に難しいです。例えば自分の中では同じように走っているつもりでも、1回目と2回目ではセクター1のタイムが全然違ったり、軽い気持ちで走っていたらセクター3が速くて、もうちょっとタイムを詰めようと頑張ると逆に遅くなったり……。鈴鹿が苦手なのはスーパーフォーミュラでもスーパーGTでも一緒なのですが、スーパーフォーミュラのほうがより難しく感じますね。
Q茨城県の櫛田崇太さんからの質問です。「塚越選手が2番目に好きなコースは何ですか?」
好きなコースはないので、2番目もないです。すいません(笑)。
Q三重県の三谷宜靖さんからの質問です。「塚越さんだけでなく、他のドライバーにも言えることですが、鈴鹿サーキットの最終コーナーの走行ラインがすごくアウト寄りにあるように見えます。超素人的な考えなのですが、もっとイン側を走ったら距離も短いし、タイムも上がりそうな気がします。実際はどうなのでしょうか?」
距離だけを考えたら、最終コーナーのラインはインのほうがいいのはわかっています。でも、その前のコーナーであるシケインで、立ち上がってからすぐに曲がらないといけませんよね。アクセルを踏んだ時、リアのトラクションがあれば最終コーナーでインにつけることができますが、加速する時はなるべくクルマを真っ直ぐにしたいじゃないですか。そういう観点で考えると、どうしてもアウトによらざるを得ないのです。自分としてはアウト側を走っているつもりはないですが、たくさんアクセルを踏むため(=速く走るため)に、意識的にアウト寄りを走っているということです。
Q栃木県のhotsamuさんからの質問です。「同じ栃木県民としていつも塚越さんとリアルレーシングを応援し、昨年の表彰台の瞬間はとてもうれしかったです。さて、塚越さんはレース中、落ち込んだり、焦ったりすることがしばしばあると思いますが、そんな時はどのように対処していますか?」
レース中に落ち込む時間はないですが、あるとすればリタイアすることが決まった瞬間ぐらいです。逆に焦ることはたくさんあります(笑)。例えばスタート失敗した時や、マシンにトラブルに見舞われた時もそうですね。でも一番焦る瞬間は、スーパーGTでGT300クラスのマシンを抜いていく時ですね。相手が、予想もしなかった動きをして、もうちょっとで接触しそうになる……ということもあります。

焦るような出来事やアクシデントに遭遇した時は、その事実をしっかりと受け入れるようにしています。中途半端に対処しようとすると、また余計なミスを重ねてしまいます。だから、まずは事実を受け入れて、気持ちをしっかりと切り替えるようにしています。
Q兵庫県の野村和喜さん他からの質問です。「スーパーGTでホンダのドライバーの中で一番組んでみたい人は誰ですか?」
これまで組んだことのある小暮さんや武藤(英紀)さんとのコンビネーションは決して悪くなかったと思います。でも組んでみたい人になると……誰とは言えませんね(笑)。質問の「組んでみたい人は誰?」とは別の話題になってしまいますが、ホンダのGT500のドライバー全員がKEIHINの17号車でも他のチームのNSX-GTでもいいのですが、同じマシンに乗って誰が一番速いのか? それをみんなで競い合ってみたいですね。
Q東京都の親父とんぼさんからの質問です。「オートサロン2018での金石監督、小暮選手とのトークショー楽しくて最高でした! 塚越選手がスーパーGTで他のドライバーとコンビを組む上での理想像などあったりするのですか?」
しっかりと結果を出せることですね。それが何よりも大事です。その上で、レース以外の部分でも共通の話題があったり、気が合ったり、ということがあればいいと思います。そういう意味で、小暮さんは理想的と言えるかもしれません。
Q千葉県の千春さんからの質問です。「2018年からF1のワールドチャンピオン、ジェンソン・バトンがスーパーGTに参戦します。間近で見て、どんな印象でしたか?」
昨年末にセパンのテストで一緒に走った時は、すごくフレンドリーで、気さくに話しかけてくれました。とても接しやすかったですね。F1の世界で長年活躍してきたドライバーというのは、人格面でも素晴らしいのかなって思いました。僕も勉強すべきところはありますね。ただ走りに関しては、まだわからないです。
Q千葉県の滑川琢朗さんからの質問です。「今現在、世界のドライバーでライバル意識している選手はいますか?」
いないですね。強いて言うならば、昔の自分に負けないように頑張っています。
Q茨城県のいのさんからの質問です。「トヨタや日産のドライバーで、『ライバルながらあの人はすごい!』とか『GTのパートナーになってみたい!』という選手はいますか?」
特にいません!
Qいのさんからもう一問です。「先輩ドライバーの小暮選手や伊沢選手と仲の良いエピソードは聞いたことがありますが、後輩の野尻選手や(中嶋)大祐選手とプライベートで遊ぶことはありますか?
他のメーカーのドライバーはもちろん、ホンダのドライバーともプライベートで遊ぶことはまったくと言っていいほどないです。プライベートで会うのは小暮さんぐらいかな。お互いにクルマが大好きという共通点がありますので、クルマについて誰よりも二人で話していますね。キャラクターも僕と合っていると思うんです。小暮さんは先輩で尊敬していますが、一緒に過ごしていると同級生のように感じることがあるんです(笑)。それぐらい気兼ねなく付き合うことができます。それも小暮さんの懐の深さだと思います(笑)。
Q三重県のscp10userさんからの質問です。「ついにレッドブルとホンダがF1で組む日が来ましたね! 塚越選手が開発ドライバーになれば、ホンダF1のパワーユニットも進化のスピードが格段にアップするはずです。開発に携わってみたいと思いますか?」
もちろんです! 何かF1の世界に携わってみたいですし、チャレンジできるものだったら(開発ドライバーを)ぜひやってみたいです。
Qscp10userさんからもう一問です。「2017年、スーパーフォーミュラでは金石監督のヘルメットデザインで戦ってらっしゃいました。でも最終戦では、それまでと異なる赤ベースのヘルメットだったとお見受けしました。よろしければ何か理由がおありだったのか教えていただけませんか?」
毎シーズン、2種類のデザインのヘルメットを作っていますが、2017年に関しては、ひとつはリアルレーシング設立10周年を記念して、(金石)勝智さんのヘルメットのデザインで走っていました。もうひとつの赤ベースのヘルメットは、アライヘルメットさんに結婚祝いとしてペイントしていただいたものでした。2018年仕様のヘルメットのデザインはすでに完成しているのですが、すごくシンプルでカッコいい仕上がりになっています。期待していて下さい!
Q兵庫県の安田雄一さんからの質問です。「以前、スポーツを科学するNHKのBS番組『自動車レース&岡田メソッド』を拝聴しました。統計解析を活用された実感や感想などうかがえたら幸いです。視点の変わり方、ドライビングが変わったなどがあれば、ご教示下さい」
スーパーフォーミュラでアビーム・コンサルティング株式会社の方と一緒に仕事をしており、データ分析・活用支援を行ってもらっています。具体的にはデータロガーのデータをもとに、さらに詳細に解析を行っていきます。あとは画像解析などもしてもらっていますね。僕らが普段目の届かないところ、例えばライン取りなども細かく画像を使って比較してもらったり、タイムを見るのも単純にセクター1、2とかじゃなくて、もっと細かく切り分けて分析してもらっています。新しい発見がいろいろありますので、それをもっともっと結果につなげていきたいと思っています。

ドライビングに関しては、まだ変わったことはありません。でも僕は常日頃、いいもの、新しいものがあればどんどん取り入れていますので、ドライビングはいつも変わっているといえます。そもそもドライビングは固定されたものだと思っていません。例えばレース中でも、僕はいろいろなラインを試すこともあります。ライン取りが変わればアクセル、ブレーキ、ステアリングの動きも当然、変わってきます。ドライビングは絶えず変化しているのです。
Q宮城県の鈴木成那さんからの質問です。「レーサーになりたいという気持ちが強ければ、遅くカートなどを始めてもスーパーGTのレーサーになれますか?」
なれると思います。ただ、モータースポーツは今、若年化が進み、特にF1では10代のドライバーが活躍する時代です。例えば18歳でF1に乗ろうと思って逆算すると、すごく若いうちからカートを始めて、F4、F3、F2とステップアップを重ねていかないといけません。

でもスーパーGTは参戦するドライバーの年齢は幅広いです。特にGT300クラスはさまざまな年齢のドライバーが参戦していますので、遅くから始めても問題ないと思っています。ただGT500に関しては、F1に近い状況になっています。ほとんどのドライバーがF4、F3などのフォーミュラを経験して、GT500のドライバーになっているのが現状です。そう考えると、ある程度、早く始める必要があるかもしれません。

ただGT500のドライバーになるには、フォーミュラの経験が必須条件だとは思っていません。もちろんフォーミュラの経験はGT500のマシンをドライブする時に大いに役立ちます。でも、ずっとツーリングカーのレースを走っているドライバーが、そのままGT500にステップアップする道があってもいいはずです。結局、ドライバーどんなクルマに乗っても速ければいいんです。ヨーロッパには、ドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)を経験したあとにF1にステップアップしている選手だっているんですから、いろんな可能性があっていいと思っています。
Q三重県の加藤コーラさん他からの質問です。「スーパーGTでKEIHIN号のNSX-GT以外に乗ってみたいマシンはありますか?」
もちろんニッサン(GT-R)もレクサス(LC500)も乗ってみたいです。ニッサンだとNISMOかな。レクサスはどのチームも速そうですが、チャンピオンを取ったトムスや強豪セルモはドライブしてみたいです!
Q兵庫県のヒロトンさんからの質問です。「2017年のインディ500マイルレースで、優勝した佐藤琢磨選手がチェッカーを受けた瞬間に絶叫した後、スタッフに感謝の言葉を伝えていました。塚越選手がスーパーGTかスーパーフォーミュラでチャンピオンになった時は、どんなことを言うと思いますか?」
きっと最初は言葉が出てこないと思います。どんなことを言うのか、その時にならないとわからないですが、早くその日が来るように頑張ります!
Q福島県の長嶋凌さん他からの質問です。「レース前に必ずするというルーティンはありますか?」
ないです。唯一あるとすれば、レースのために家を出る時に部屋をきれいにするぐらいかな。自分の部屋が片付いていると、レースにもスッキリした気持ちで臨むことができるような気がしていますので。
Q岡山県の田口和香枝さん他からの質問です。「マシンに乗り込む前のルーティンや儀式のようなものはありますか?」
レース前も、マシンに乗る前も基本的にはありません。そういうことはなるべくしないように心がけてします。というのも、ルーティンを決めてしまうと、「それを必ずしなければならない」というプレッシャーになってしまうような気がするからです。できなかった時に不安感にとらわれるのが嫌なので、ルーティンやゲン担ぎなどは、できるだけしないようにしています。
Q茨城県の櫛田英明さんからの質問です。「レース中は毎戦、何を考えながら走っていますか?」
勝つにはどうしたらいいかということよりも、1周1周どうやったら速く走ることができるのか、ということを多く考えていると思います。スタートしてからフィニッシュまでの間、自分の持てる最高のパフォーマンスを発揮するためにはどうすればいいのか。マシンの限界は超えられないので、順位うんぬんよりも、どうやったら少しでも速く走れるのか、ということをシンプルに考えていますね。それに付随して、オーバーテイクの仕掛け方や、タイヤのマネージメント方法などを考えている、という感じです。
Q東京都のみなえさんからの質問です。「2018年でトップカテゴリー参戦10年目とお聞きしました。その前のカテゴリーを含めると長いレースキャリアだと思いますが、トップカテゴリーに限らず、これまでのレースキャリアの中で一番印象に残っているシーズン(またはレース)は? うれしい、楽しい、悔しい何でも印象的なレースを教えて下さい」
どれかな……(しばし熟考)。一番印象的なレースは、やっぱり2010年のSUGOです。スーパーGTで初優勝したレースですが、勝ち方を含めて(最終ラップの最終ストレートで大逆転、スーパーGT史上もっとも僅差の0.025秒差で優勝)、あれを超える劇的なレースはなかなかないと思います。

悔しいレースは多すぎてわからないですね。チャンピオンを逃した2012年のスーパーフォーミュラの最終戦(鈴鹿)もそうだし、近いところでは2017年のスーパーGT第6戦の鈴鹿1000kmも勝てるはずのレースでしたし……。悔しいレースはいっぱいあります。
Q三重県のとっしーさん他からの質問です。「2018年シーズンのスーパーGTとスーパーフォーミュラの抱負はなんでしょうか? 私は塚越さんの優勝を願っています!!」
2018年は、スーパーGTもスーパーフォーミュラもトップカテゴリー参戦10年目となります。スーパーGTはチームもパートナーも変わりませんので、コミュニケーションはより深まっていますし、悪かったところをしっかりと共有できていますので、確実にいい方向にいくと思います。

スーパーフォーミュラに関しては、現行のマシン(SF14)は今季限りになりますので、一番熟成された状態で走ることになります。また、大きな変更として、全戦で2スペックのタイヤが投入されます。これで、戦略の幅が広がり、オーバーテイクのチャンスが増えることが予想されていますが、僕たちドライバーはマシンを速く走らせることに変わりはありません。オフのテストでは、いいタイムで走れました。内容は確実によくなっていると思います。

最初に言ったように、2018年はトップカテゴリー参戦10年目の節目のシーズンですので、今季は結果を残すことにこだわりたいです。目標はもちろん、スーパーGTとスーパーフォーミュラのダブルチャンピオン獲得です! 今年も応援をよろしくお願いします。